なぜ、高校生が議会をつくるのか。
鶴岡市の中高生が立候補し、自分たちの一票で代表を選ぶ。選ばれた少年議員が地域を調べ、市へ政策を提言する。
鶴岡少年議会の構想だけを聞けば、最初から壮大な計画があったように見える。しかし、代表・佐藤匠之輔の出発点は、もっと単純なものだった。
「やったら、絶対に面白い」
その小さな直感は、人に会い、連絡を取り、実際に動くなかで、少しずつ現実の仕組みに変わっていった。

話し手|佐藤匠之輔
鶴岡少年議会創設準備実行委員会 代表
聞き手|坂本 武
致道館高校 生徒会長
――鶴岡少年議会は、個人で始めた活動なんですよね。
佐藤 いや、違うんですよ。実は。
――違う?
佐藤 最初、全部ゼミだったんです。
――あ、そうなんだ。
佐藤 どこから話すのが一番いいんだろう……。一番最初から話すと、学校のゼミで遊佐町の少年議会を知ったんです。
それをまねして、鶴岡でもできたら面白いなと思って。選挙とか立候補とかの制度も導入して、少年議会に独自の予算を持たせたりできたら、絶対に面白いだろうなって。
それが始まりです。
――その時点で、本当に実現させるつもりだったんですか。
佐藤 最初は「できたら面白そう」くらいです。本気でやろうと思い始めたのは、今年の5月とかですね。
それで、本気でやろうとして調べていったら、そもそも少年議会を市の管理下に置くことが、めちゃくちゃ難しいと分かって。
――市が直接、少年議会を運営するということ?
佐藤 そうです。市が新しい事業として始めるなら、予算や職員の配置とか、いろいろなことに関わってきます。僕たちが「やりたいです」と言って、すぐにつくれる話ではなかった。
それと、ほかの地域の少年議会を調べると、市の事業として、市の管理下で運営されているところが多いんです。
もちろん、それが悪いわけではありません。市の支援があるから、予算を確保できたり、提言を行政につなげやすかったりする。できることは、たくさんあると思います。
ただ、やっぱり自由気ままに動くのは難しいだろうな、とも感じました。
――市の事業である以上、一定の制約がある。
佐藤 そうです。それに、よく考えると、少年議会は市に政策を提言する側じゃないですか。
――提言される市が、提言する側も運営している。
佐藤 そうなんです。そこに、少し違和感がありました。
市に協力してもらうことは絶対に必要です。でも、市へ意見を出す組織そのものが、市の管理下に置かれているのは、少し筋が違うんじゃないかって。
――市との距離が近ければ、提言に影響力を持たせやすい。でも、近すぎると自由に言えなくなるかもしれない。
佐藤 まさに、それです。
少年議会には、ちゃんと影響力を持たせたい。ただの体験活動にはしたくない。
でも、影響力を持つほど、市の中では扱いにくい存在になるかもしれない。そうなったときに、活動できる範囲が狭くなったり、自分たちで「これは言わない方がいいのかな」と線を引いたりするようになるんじゃないか、という不安がありました。
――影響力を持たせたい。でも、影響力を持ったことで自由を失うかもしれない。
佐藤 はい。だから、市に敵対したいわけでは全然ないんです。むしろ、市や議員とは積極的につながりたい。
ただ、運営する主体は中高生でありたい。協力はしてもらうけれど、管理はされない。その距離感が必要だと思いました。
それで喜多さんに話を聞いたとき、「別に、市の管理下に置かなくてもいいんじゃないか」と言われたんです。独立してやる方法もあるんじゃないかって。

ここでリアルになってきた。
――それを聞いたときは、どう思いました?
佐藤 「あ、それでもいいんだ」と思いました。
市の事業にしてもらわないと少年議会はつくれない、と勝手に思っていたので。自分たちで独立してつくるという選択肢が、そこで初めて見えました。
でも、独立すれば、独立したで問題があって。
――というと?
佐藤 おままごとになりかねない。
――ああ。自由にはなるけれど、今度は社会に対する影響力がなくなる。
佐藤 そうです。自分たちだけで「議会です」と名乗って、政策をつくって発表しても、それが行政や本当の議会に全然つながらなかったら、結局は議会ごっこで終わるじゃないですか。
だから、独立するけれど、孤立はしない。
市の管理下には入らない。でも、市や市議会議員、企業、地域の人たちとはきちんとつながる。その間の形を探していました。
ゼミから、学校外の活動へ
――最初はゼミだったのに、今は学校外で活動していますよね。そこは、どう変わったんですか。
佐藤 市から10万円の助成金をもらいたいと思ったんです。
――急に具体的ですね(笑)。
佐藤 (笑)。「まち活」という市の助成事業があって、それに応募しようとしたんです。でも募集要項を見たら、学校の授業として行う活動は対象にならなかった。
それまではゼミで進めてきたけれど、ゼミの延長線上にある限り、助成金を受けられない。それで学校から独立して、今は僕たちが個人で、仲間と一緒にやっています。

――では、ゼミの方はどうなったんですか。
佐藤 ゼミでは、自分たちがつくっている少年議会を研究対象にしています。
――自分たちで運営しながら、それを自分たちで研究する。
佐藤 そうです。活動自体は学校の外でやる。ゼミでは一歩引いたところから、「この少年議会はどうなのか」「どんな意味があるのか」を考察する。
だから、最初はゼミスタートなんですけど、今は普通に、個人で仲間とやっている感じです。
「社会を変えたい」から始まったわけではない
――でも、どうしてここまで本気になれたんですか。最初は、ゼミで「面白そう」と思っただけだったんですよね。
佐藤 そうなんですよね。
――地域の課題を解決したいとか、社会を変えたいとか、そういう思いが強かった?
佐藤 いや、社会課題なんて、あんまり意識してなくて。
――意識してないんだ(笑)。
佐藤 ちょっと言い方があれですけど(笑)。少なくとも、「地域のために自分が立ち上がらなければ」という社会的な使命から始めたわけでは、本当にないです。
世の中には「これ、面白そうだな」と思うものが、いくらでもあるじゃないですか。少年議会も最初は、その一つでした。
でも、遊佐町の方にメールしたり、いろいろな人に話を聞いたりしていくうちに、ちょっとずつ具体的になってきた。「これ、本当にできるかもしれない」「実現したら、かなり面白いんじゃないか」と思うようになったんです。
いろいろある「面白そう」のなかで、少年議会だけ、未来の広がり方が特別だった。
――社会をよくしたいというより、目の前に見えてきた可能性を実現させたい。
佐藤 そうです。
もっと面白いことができる可能性があるのに、それに触れないのはもったいない。そのくらいの気持ちです。
いろいろ動いた結果として、社会的な活動に見えているのかもしれない。でも、僕の行動の出発点は、ずっと「やりたいからやる」です。
――社会活動というより、“社会的な趣味”なのかもしれないですね。
佐藤 ああ、そういう言い方もできるかもしれない(笑)。
最初は、2人だった
――少年議会をつくろうと決めたとき、メンバーは何人いたんですか。
佐藤 最初は、僕と深澤禅の2人です。
――2人?
佐藤 2人で始めました。2か月くらい、ほぼ2人でやっていて。
でも、だんだん「これは2人でやるには大きすぎるよね」となってきた。ワークショップをやることを決めて、外部との連絡も必要になって、会計も必要になって。それで木村悠人や山口光希、長南鉄心たちに入ってもらいました。
――先にメンバーを集めてから、計画を立てたわけではないんですね。
佐藤 逆です。やることが決まってから、人を集めました。
まずワークショップを開催する。その後、少年議会の創設メンバーを募集する。そのメンバーで議会の仕組みを整えて、少年議員選挙を行い、本当の議会をつくる。最後は、次の人たちにバトンタッチする。
そこまでの計画を2人でつくってから、「これを実行するなら、もっと人が必要だ」となりました。
――組織を先につくったのではなく、やりたいことに合わせて組織ができていった。
佐藤 そうですね。最初から、立派な組織があったわけでは全然ないです。
まずは、仕組みをつくりきる
――完成した少年議会を、後輩へ残したいという思いはありますか。
佐藤 正直、今は後輩のことをそこまで考えていないです。
――そこも意外です。
佐藤 続いてほしいとは思いますよ。せっかくつくったので。
でも、「自分の考えを絶対に次の世代へ受け継いでほしい」とまでは思わない。僕がいなくなった後に、少年議会の考え方が変わったり、質が下がったりすることもあると思います。
でも、それは仕方がない。そこまで僕が決めようとするのは、おこがましい気もします。
僕は、とりあえず設備だけつくれたらいい。
――設備?
佐藤 設備というか、仕組みです。
中高生が立候補して、中高生が投票する。選ばれた少年議員が地域を調べ、政策をつくり、市や議会へ届ける。
その仕組みを、まず本当につくりたい。
――その後、誰が運営するんでしょう。
佐藤 本当に、それは分からないです(笑)。
AIで、知識と経験の差を埋める
――今回のワークショップでは、AIを使って政策をつくるそうですね。
佐藤 はい。そのための教材をつくっています。これが一番きつかったです。
――自分でつくったんですか。
佐藤 そうです。
最初に、AIがどうやって文章をつくるのか、どんな間違いをするのかを書きました。その後に、AIと一緒に地域課題を調べて、解決策を比較して、政策にまとめる流れを入れています。
AIの性質を自分で勉強するのにも時間がかかったし、それを中高生向けの文章にするのも大変でした。
ただ、まだ実証実験もしていないので、実際にどうなるかは分からないです。
――完成品ではない?
佐藤 全然。参加者と一緒に使いながら、どんどん変えていくものだと思っています。

――そもそも、なぜ政策づくりにAIを使うんですか。
佐藤 使い方次第では、最強じゃないですか。
中高生には、どうしても知識や経験が足りません。議員と同じだけの制度知識を、最初から持つことはできない。政策をシミュレーションする力も足りないと思います。
そこをAIに補ってもらう。資料を整理したり、反対意見を考えたり、政策の問題点を探したりする。
そうすれば、中高生でも、市議会議員と対等に政策の話ができるかもしれないと思ったんです。
鶴岡から、ほかの地域へ
――この教材は、ワークショップが終わった後も使うんですか。
佐藤 最終的には、もっと洗練させた本と、専用のAIをセットにしたいです。
ChatGPTを少年議会向けにした、独自のAIをつくる。それと教材をセットにして、地方自治体に届けたい。
――教材を売る?
佐藤 はい。
まず今回のワークショップで、参加者がどう変わったのかを事前・事後アンケートで調べます。「こういう成果がありました」と数値で示せるようにして、いつか各地の自治体で使ってもらいたい。
それが鶴岡少年議会の収入源になれば、活動を続けるためのお金にもできると思っています。
――最初は「遊佐町の少年議会を、鶴岡でもやったら面白そう」だったのに、もう全国の自治体まで見えている。
佐藤 そう言われると、確かにかなり広がっていますね(笑)。
でも、本当に、最初から全部を考えていたわけではありません。
遊佐町へ連絡したら、少し現実になった。喜多さんと話したら、独立する形が見えてきた。助成金に応募しようとしたら、ゼミから離れることになった。ワークショップをやろうとしたら、教材と仲間が必要になった。
一つ動いたら、その次に必要なものが出てきた。
ただ、それをずっと繰り返してきただけです。
――今、完成形は見えていますか。
佐藤 いや、全然。
でも、面白そうだと思った未来を、想像だけで終わらせたくない。
まずは、鶴岡に少年議会を本当につくる。それだけです。

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